猪原金物店・コラム明治10年に創業。九州で2番目に歴史の金物屋。
金物店の裏では喫茶店も営業しています。

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その3 20:58
海洋堂の天才造形師・松村しのぶのマッコウ鯨を手に入れてから、他の作品が気になり始め、大阪の海洋堂本社に電話を入れ、パンフレットの請求をした。
次に、マッコウ鯨と同じソフトビニール製のザトウ鯨を通販で購入し、最後に松村作品における最大サイズであるシロナガス鯨(83センチ)を注文した。(ヘソクリの28000円が消えた)
現在、海洋堂はこれらの大型モデルを廃盤にし、もっぱら例の「チョコエッグ」のおまけシリーズに生産をシフトさせた。
一部のマニア向け高額製品より一般消費者向け低額商品の需要が圧倒的に多いことに着目し成功したのだ。
当時無理してでも買っておいて良かったと今更ながら思う。
添付写真がそのシロナガス鯨である。
これは他の作品と異なり、硬質の無発砲ウレタンで出来ており(内部は発砲ウレタン)表面の彩色もされていなかった。
海洋堂に電話すると、「 エ!?  これを注文される方は自分で組み立てて、色も図鑑などを参考にしながら自分で彩色されますけど・・・・」との返事だった。
つまり、マニアを対象にした作品であり、「素人」は注文しないというニュアンスだった。
添付写真を見ていただけばわかるように、頭頂部に型抜き前にウレタンを注入した穴が残っており、樹脂材で補修するようになっている。
両ひれも別作で、接着剤で付けなくてはならない。
体表部も型抜き用剥離(はくり)材が付着しており、脱脂洗浄しなくては塗料がのらないそうだ。
なるほど「作る楽しみ」を存分に残してくれている。
ただ、当時の小生は(今もそうだが)フィギア・マニアではなく、ウッド・クラフトを目指していたわけで、いろんな鯨のモデルが欲しかっただけなのだ。
シャチやマッコウ鯨を彫るのにも実物を観たことがなかったので随分苦労した経緯があった。
実は当時、ささやかな夢があったのだ。
主婦連は文化サークル花盛りなのに、仕事中毒で休みはパチンコぐらいで間をもたせるしかない「めぐまれない中年男性」を集めてウッド・クラフトのサークルを作り、土日曜は手弁当で集まってきた仲間と、ナイフで木をシコシコ削りながら楽しいひとときをおくれれば・・・とか思っていたのだ。
彫る対象のひとつとして、鯨のモデルがあれば、それを観察しながら自分なりにデフォルメもできる。
もちろんそんな夢も、5年前に当店を改装した時点で、もろくも潰(つい)えた。
作業ができるスペースの確保を断念し、従来の金物店の形態を大幅に改革し、茶房とギャラリーのジョイント形態に方向性を打ち出したからだ。
「何かを得るためには何かを失う」・・・・これは人生における法則だ。
シロナガス鯨・・・・地球史上、最大の動物である。
最大の個体で全長35メートル、体重120トン・・・尾びれの幅は8メートルあり、その巨体がなんと時速30kmで泳ぐ(!?)。
我々と同じ地上生活をする哺乳類の先祖から分かれ、再び海に戻って進化していった動物・鯨。
繰り返し述べるようだが、人間が作ったものと異なり、自然が作ったあらゆる動植物はまったく無駄がなく、完璧で、なおかつ美しい。
シロナガス鯨の流線型のボディーと表情・・・・尊敬と羨望である。
生きているうちに本物を見たらおそらく人生観が変わるだろうなあ。
ささやかな目標は、この無発砲ウレタン製のシロナガス鯨の体表を彩色して完成させる事と、木製の1メートルを越えるシロナガス鯨の作品を作る事である。
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その2 20:42
5年ほど前に友人と東京に行き、東京の下町めぐりと道具屋を見て歩いた。
最終日にホテルからすべての荷物を送る事にして、帰りの飛行機では手ぶらで帰ろうと決めていた。
空港までの空き時間があったので渋谷の東急ハンズに寄る事にした。
そこで海洋堂の天才造形師・松村しのぶ氏の作品と出会ってしまった。
ソフトビニールでできたそのマッコウクジラは「完璧」だった。
丁度その1年程前に、ナイフ・カービングでマッコウクジラに挑戦し、挫折していた頃だった。
葛藤した。見なかった事にしようと何度も自分に言い聞かせた。
しかし結局、「買って帰った方が後悔はしない。」と結論を出し、1万5千円のマッコウを買ってしまった。
空港の改札口をまるで駄々をこねて親から買ってもらった大きなオモチャを抱えた子供のように通過した。
「なんてアホな中年やろか」と言いながらも心はワクワクしていた。(少なくとも島原に帰って家内から叱られるまでは)
添付写真の上が松村しのぶ氏のマッコウ鯨(全長65センチ)。
下がその一年ほど前に彫りかけ途中で挫折した楠のマッコウ鯨。
天才と凡人初心者の違いが良くわかる。
マッコウ鯨の生態を記録したイギリスBBC放送の番組を録画し、何度も繰り返し観ながら全体のフォルムを決め、楠の角材にデッサンを書き込む作業から始めた。
画面を観ながらナレーションを聴いていて、やはりこの鯨も凄いと思った。
主食のイカを捕食するために水深1000メートル以上潜水する哺乳類である。(!?)
最新鋭の原子力潜水艦ですら水深1000メートルは想像を絶する水圧のため潜水は不可能に近いのに、いとも簡単にやってのける。
潜水時間も1時間以上は軽いという。
動植物の生態や形態には進化の過程でそれなりの深い理由がある。
マッコウ鯨の巨大な頭部と胴体部全体を覆う深いしわは1000メートルの潜水を可能にするために獲得した形態である。
特に頭部の内部には一杯に脳油が詰まっており、この脳油を液体状にしたり固体状にしたりしながら比重を変えることで、深海への潜水と浮上を可能にしているのだ。
液体と固体の変換は熱い血液と冷たい海水を脳油に交互に循環させる事で可能にしている。
一体誰がこんな事を考えたのか?マッコウクジラか?神様か?
ところがその脳油が燃料や潤滑油など工業用として有効だったため、当時の欧米列強は大量に捕鯨殺戮し、個体数が激減して絶滅寸前まで追い込まれた事があった。
脳油だけを採ってあとは廃棄したのだ。
現在、世界中から非難されている日本は、鯨を捕獲し、肉、皮、内臓、骨、ヒゲなどすべてを無駄なく利用した。
食、工芸、建築などの「文化」にまで高めたのだ。
毎日、牛、豚、鶏などを殺して食材にしている事とどこが違うのだろう?
所詮、生きているということは「食物連鎖」に組み込まれている事なので、何かを殺して食べなくては生きていけない運命なのだ。
殺人と戦争はあってはならない罪悪として同じことなのに「違う」と言うし、もう論理が無茶苦茶だ。
小生の中のマッコウクジラは、あの有名な小説「白鯨」(メルヴィル著)のイメージがどうしてもついてまわるのである。
片足を奪った巨大な白鯨・モービー・ディックへの復讐に燃える捕鯨船の船長・エイハブ。
最期は白鯨を含めた自然の力に勝てず、命を落とす事になる。
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その1 20:20
中学生の頃、図書館で「鯨」の本を偶然手にした。
その中で一番強烈だったのはシャチの生態に関する文章だった。
シャチは他の鯨類同様に知能が高く、海の生物の食物連鎖の頂点に君臨する。
彼等は集団で狩りをし、南極海も含め世界中の海に棲息し、定住あるいは移動しながら生活している。
彼等は声帯や頭頂部から発するパルス(超音波)を使って仲間同士、巧みにコミュニケ−ションをはかり、いくつかの「言語」も持っている。
シャチの一番の好物はヒゲ鯨の赤ちゃんの舌である。(!?)
親子で移動している鯨を取り囲んで、赤ちゃんが泳ぐ体力がなくなるまで休ませず、ずっと追いかけるのだ。
赤ちゃんが弱って動けなくなった時、いきなり親子の間に分け入り、赤ちゃんを親鯨から引き離すと、赤ちゃんの口に頭を突っ込み舌を噛んで自分の体を回転させ引きちぎる。
血だらけになった海面には下あごがなくなった赤ちゃんの死体が浮いていて、母鯨はあきらめて再び泳ぎ始める。
なんと残虐で狡猾な動物だろうと思った。
普通の肉食動物は狩りをする時は空腹の極限で命懸けである。
鯨の赤ちゃんを襲うのならすべての肉を食べ尽くすべきであり、3時のおやつじゃあるまいし、嗜好やグルメで舌だけを食べて「はい、さようなら」はないだろう。それじゃあまるで「人間」だ。
鯨の赤ちゃんは生まれながら本能的にシャチに恐怖心を持っていて、シャチに初めて遭遇しただけで気絶する個体もいるらしい。
強くて残虐であり、人間に近いほどの高い知能を持ったシャチに、いつの間にか魅了されるようになった。
サメとは一味ちがう流線型のフォルム、オブジェを連想させる立派なオスの背びれ、黒と白の体色がサイケデリックにちりばめられ、強烈な個性を出している。
虎やライオンの美しさと強さに人が魅了されるように、鯱(シャチ)の美しさの虜になっていった。
噴火災害前からウッド・クラフト(木彫)に興味を持ち始め、元来のナイフ好きと重なって、ナイフ・カ−ビングを始めるようになった。
ナイフ・カ−ビングと言えば「ウッド・デコイ」と相場は決まっている。
アメリカの先住民族が鳥の狩猟の時に使った擬似”鳥”が始まりと言われている例の木製のカモ(あるいは雁)の模型だ。
しかし、小生は迷わず、シャチをモチーフに決め材料を探した。
本に書いてある木彫に適材のナラやブナの木なんて周りにはない。
木造の家の建築現場に配達の際、足もとに太めの角材の切れ端が転がっていたので「この木はいらんとですか?」と大工さんに尋ねると「玄関に使った柱の木っ端だからいらん、どうせ後で燃やすけん持っていけ」と言ってくれた。
しめしめこれで材料はゲット!
ところが小生はシャチの現物を見たことがない。
映画「オルカ」やTVの記録番組(特にイギリスBBC放送)で時々見た程度だった。
別にリアルに彫らなくてもデフォルメしたり自分の想像力で個性を出せればいいと思いながら始めたが、とんでもない事に気づいた。
二次元の「絵画」と違い、三次元の立体彫刻は前後左右、上下、縦横斜め、あらゆる角度から眺めても納得のいく「絵画」にならなければならないのだ。
もらってきた角材は楠(くすのき)で結構かたくて手ごわい。
初心者にはかなり厳しかった。
したがって使用するナイフも慎重に選んだ。
指先に力が込められるように刃渡りの短い直刃、材質は硬め(炭素工具鋼)・・・・G・サカイというメーカーの「現代の肥後守」と言われている「AR−301」(2600円)に決め、彫り始めた。
添付写真は完成したシャチの作品と使用したナイフ。
本物のシャチを観たら「ひえ〜!!」と自分の勝手な思い込みにのけぞるかもしれない。
現在はカービングをする場所など小生には与えられていない。
あの楠を彫った時に拡がる樟脳(しょうのう)の香りが今となっては懐かしい・・・・・・
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