【庖丁を研ごう!】企画・その5

2015.12.11 Friday

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    昨日、知人のTVディレクター・Y女史が来店。「ご無沙汰してました! あのぉ・・・頼みたい事がありまして・・」と、おもむろに手提げバックから長い紙包みを取り出した。開いてみると牛刀とペティナイフが2丁。「これ、どこの発掘現場から拾って来たの?・・鎌倉時代?室町時代?一体どっちだよ?」「エ〜!? ワタシのですよぉ!ちゃんとハンドルに名前が彫ってあります。」「ま、まさか・・・これを研げって?」「はい!」「・・・エ〜!?・・」Y女史の相談事や頼み事はいつも思いっきりハードなのです。

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    【庖丁を研ごう!】企画・その4

    2011.02.17 Thursday

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      先日、庖丁砥ぎ33丁の依頼があり、手砥ぎで一日何丁研げるものか挑戦してみた。 日頃は個人で依頼される庖丁や鋏類はせいぜい数丁ほどなので余裕を持って研いでいるが、年に何回かこのようにまとまって持ち込まれることがある。

      研ぎの工程は、まず庖丁や鋏本体に付着した錆やゴミを除去した後、刃先の状態をチェックすることから始まる。 刃が欠けていたりすると荒砥石かグラインダーで研磨し形を整えなくてはならない。 その後、中砥石で刃先の裏表を砥ぎあげていく。 これで家庭用では充分に切れる状態になる。

      しかし、仕事としての研磨は最終段階、つまり仕上げ砥ぎまで行うのが普通である。 今回依頼を受けた33丁は刃欠けがなく、錆落とし後すぐに中砥石で砥ぎ始めることが出来た。 水研機やグラインダーなどの機械は使わず手砥ぎだけで約3時間。 ほぼ中砥ぎが終了。 少し疲労が出た。

      後は仕上げ砥ぎだが、中砥ぎと全く同じ角度で仕上げ砥石で研ぐだけである。 砥ぎあげて刃先に指を当てると中砥ぎの状態と比べて全く抵抗がなくなる。 30年以上刃先に指を当てていると感覚だけで刃先の状態やハガネのランク(等級)が分かるようになる。 同じ工程で同じように研いだ庖丁でもハガネのランクがプロ仕様の最高級品になると、気付かぬうちに指先の皮に刃先が食い込む事もある。 それほど切れ味が違うのである。 

      中砥ぎ3時間のあと一休みして約一時間で仕上げ砥ぎ完了。 中砥ぎは体力を使い、仕上げ砥ぎは神経を使う。 日本橋の「木屋」、京都の「有次」、川越の「まちかん」など国内屈指の刃物専門店は、店頭で職人が砥石を使って手研ぎをしている。 しかし、それぞれの砥ぎ職人の「研磨理論」は微妙に異なっている。 それは「切れ味」と「刃持ち(長切れ)」のどちらに重点を置くかのバランスで決まるようだ。

      もちろん、和包丁や洋包丁、ナイフ、鋏、鉈、鎌など刃物の種類や材質、切る対象物によっても研ぎ方や砥石の種類は異なる。 例えば、狩猟用の大型ナイフで竹を切りに行く場合、800番より目の粗い砥石で研ぎ直さなければならない。 刃先を鋸刃状態にして竹の繊維にかかり易いようにするのである。 もし仕上げ砥ぎをしようものなら、最初の切れ味は良いがすぐに滑り始め切れなくなるのだ。

      島原城の山側(西)にある武家屋敷の縁側先の地面には大きな天草砥石が埋め込まれている。 江戸時代、平時には庖丁や鎌を研ぐ目的に使用されていたが、本来の目的はいざ戦時という時、刀を研ぎ直す為のものであった。 鏡面に仕上げてある美しい刀を天草砥石で速やかに研ぎ直し真っ白い鋸刃にするだ。 これは日露戦争の時も同じで、いざ白兵戦(刀剣を持った接近戦)が明日に迫ると前日に刀を天草砥石のような中砥石ですべて研ぎ直したのである。

      恐ろしい話であるが、刀剣研磨師が伝統技法で美しく研ぎ上げた切れ味の良い刀では、せいぜい十名ほどしか切り殺せない。 天草砥石など荒砥や中砥で砥ぐと切れ味は落ちるが長切れし、数十人は切り殺せるのである。 

      剣豪・宮本武蔵が吉岡一門と単独で闘った有名な一乗寺下り松の決闘においては、たった一振りの刀で闘ったとは思えない。 一説によれば、前日決闘場のあぜ道脇の水路に何振りかの刀剣を位置を憶えて忍ばせておいたらしい。  多勢に無勢を有利にするには田んぼの狭いあぜ道を戦場にすれば一対一の切り合いが可能になる。 武蔵は刀の切れ味を充分に理解していた。 何人かを斬った後に切れ味が落ちた刀を捨て、水路に忍ばせた新しい刀を拾っては斬り進むという戦法である。 

      しかし、さすがの剣豪・武蔵も荒砥石で研ぎ下ろすことでその問題が解決できるとは思いもつかなかったのだろう。  庖丁砥ぎから武蔵の物騒な話に大きく脱線してしまった・・・・・
       
      上の写真は、研ぎ上げた33丁の庖丁を陳列ケースの上に並べたところ。 一日で研ぎ上げることが出来たのは、ステンレス製の比較的柔らかなハガネの庖丁が多かったからである。 日立金属の安来鋼系の青紙1号や青紙スーパー、あるいはスウェーデン鋼を使った本鍛造の和庖丁やステンレス系高級刃物鋼の庖丁だったら、そうはいかなかっただろう。   

      量販店、スーパーなどで主に扱っている安価なステンレス庖丁を中砥石に当てて研ぐと面白いほど早く鉄粉が出てくる。 HRC硬度(ハード・ロックウェル)は50度以下のいわゆる【ナマクラ】状態である。 柔らかいのであっという間に研ぎ上がるが、使ったらすぐに刃先が磨耗して切れなくなる代物だ。 残念ながらほとんどの家庭ではこの手の庖丁を使っている。




       

      その3

      2004.04.02 Friday

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        一般家庭用の庖丁と砥石のおおまかな説明は済み、いよいよ「庖丁を研ごう!」に入る。
        日本人だったら、庖丁ぐらい自分で研ぎましょうよ。
        世界に誇れる民衆文化を創って来た我々の先祖に申し訳が立ちません。
        自動車の運転やパソコン、携帯電話の操作ほど難しくはありません。
        30分ほど水につけた砥石を、腰の高さの台(流し台や作業台の高さが85cmである)に置く。
        砥石と台の間に、滑り止めとして布巾(雑巾や新聞紙でもOK)を敷く。
        これだけで、庖丁研ぎの50%は成功したと言っていい。
        添付写真を観ていただければ、砥石のたて方向と庖丁の刃のラインとの角度が垂直(直角)ではないのがわかる。(10度から15度くらい、斜め左上がりに角度をずらす)
        直角でもかまわないが、初心者は庖丁をコントロールしている左右の手の力の入れ具合が均等でない事が多いので、左右どちらか力の入った側の刃に砥石の角がもろ(一箇所)に当たってしまい、刃に傷をつけてしまう恐れがでてくる。
        砥石の幅が約7センチに対し、刃渡りが約16センチの庖丁を、横方向に少しづつずらしながら、たて方向の往復運動で研がなくてはならない。
        庖丁の角度を10数度ずらす(逃がす)ことで、横方向へのスライド(移動)を容易にし、なおかつ砥石の角で刃を傷めにくくするのである。
        砥石のたての長さは20センチ前後ある。
        往復運動の研磨をする際、行き過ぎたり、引き過ぎたりして、砥石面から庖丁が落ちるのではないか?という恐怖心から、どうしても、中央部でこじんまり研いでしまう傾向におちいりやすい。
        手で研ぐ場合、速度は関係ないから、最初は「ゆっくり、ていねいに、正確に」を基本に、砥石面をいっぱいに使う事を意識する。
        つまり研ぐ往復運動のストローク(幅)をなるだけ広くとる事をこころがける。
        庖丁を研げば、刃物が当たる砥石面も次第に減っていく。
        砥石の面は常に、水平で平面(フラット面)を保たなければならない。(理由は次回の、研ぐ角度で詳しく述べる)
        砥石の中央部だけ、凹状態になっていては、良い研ぎはできない。
        従って、研ぐ事で歪んでしまった砥石の研ぎ面を、時々きれいな平面に直さなければならない
        これを「面直し(つらなおし)」という。
        「面直し」は、二つの砥石同士(相手は荒砥石が早くて有効)をすり合わせたり、コンクリート(土間や駐車場の)やブロックなどの水平面を使って、ゴリゴリ擦れば可能である。
        再度、添付写真を観て欲しい。研ぐ時の庖丁の持ち方である。
        右手の中指、薬指、小指の三本でしっかり庖丁の柄(ハンドル)を握り、人差し指は庖丁の側面(刃に近い位置)、親指は庖丁の背に当て、これで研ぐ角度をしっかり一定に保つのがポイントである。
        左手は中指、人差し指の二本、できれば薬指も加えて三本で庖丁をしっかり押さえる。
        くれぐれも付け加えるが、「しっかり」と「リキんで」は別である。
        庖丁は砥石の粉(砥粒子)が研いでくれる。
        力を抜いて、リキまず、しっかりコントロールするだけで、ちゃんと庖丁は研ぐ事ができるのである。

        その2

        2004.02.28 Saturday

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          「庖丁は切れ過ぎたら、手を切るので危ない」と思われる人が多いだろう。
          切れない庖丁で、分厚く手ごわい食材を切るとしよう。
          切れない庖丁は摩擦の抵抗が大きいから、より強い力を入れなくては食材を切断できない。
          力を入れると、その庖丁の方向性が不安定になる。
          違った方向に力の入った庖丁が向かう事になったら、「危険」である。
          その向かう方向が、食材を押さえている指だったとしたら・・・・ぞっとする。
          逆に切れる庖丁だったら、力が要らずに抵抗なく切れていくから、方向をコントロールしやすくなる。
          必要以上の力を入れないのが、すべての手仕事の基本である。
          むしろ「力を抜く」方が繊細な仕事を可能にする。
          したがって、庖丁、小刀、ナイフ、鉋、ノミ、彫刻刀、鋏など、刃物はすべて研いで、切れる状態にしておく事が一番「安全」なのである。
          もちろん、切れる刃物で切断した食材は、切断面の細胞がつぶれることなく、きれいな状態だから美味しいという利点がある。
          特に魚の刺し身は、その違いが顕著である。
          また、もし指を切っても、切断面の細胞がつぶれていないので、すぐに傷口がつながり、治りも早い。(!?)
          さて、庖丁を含めた刃物を研ぐ時には、「砥石」を使うのが常識である。
          ここで「へ〜!!」とか言う人は、今後このコラムを見ることを禁じる。
          砥石は「荒砥(あらと)」、「中砥(なかと)」、「仕上げ砥」に大きく分けられる。
          刃物を使用中に、落としたり、刃物より硬いものを切ったりなどして刃先が欠けた(刃こぼれ)場合、欠けた凹部分の「根元」まで刃先をすべて揃え直さなければならない。
          「荒研ぎ」、いわゆる「整形」作業である。これは非常に大変な作業だ。
          中砥や仕上げ砥では不可能で、荒砥を使用する。
          荒砥は研磨剤の粒子が大きいので、金属を研ぐ速度が速い。
          地面に大きな穴を掘る時、スプーンや移植ゴテなどを使うより、スコップやパワーショベルを使うのと同じだ。
          刃物が切れなくなったり、荒砥で刃こぼれを整形した後は、中砥で研磨する。
          砥石の研磨剤の大きさを「粒度」というが、これは数字を使った番手で表示される。
          数字が大きくなるほど粒子は逆に小さくなる。
          これは世界共通の表示法で、「メッシュ」と同じ、一定幅の枠内に何個、粒が並ぶかと言う意味である。(「メッシュ」は1インチ、つまり25.4mmの枠に並べられる目の数をいう)
          正式な規定はないが、荒砥は220番以下、中砥は240番から2000番位まで、仕上げ砥は3000番以上を言うようだ。
          家庭用の庖丁は中砥(1000番くらい)で充分切れ味を出すことができる。
          砥石を使う時は、30分ほど水に浸してから使う。
          砥石に充分に水を含ませておかないと、研ぐ時にかける水を砥石自体が吸ってしまい、「砥汁(とじる)」が出来にくくなる。
          「砥汁」は砥石の粒子と刃物の鉄粉と水で構成されたペースト状のもので、刃物はこの砥汁の中の砥粒によって研がれるのである。
          ぬるぬるして汚いからと、しょっちゅう水で流さないように注意して欲しい。(歯を磨く時に歯磨き粉を使うのと同じ原理)
          添付写真は、上の二つが昔から中砥として使われてきた「天草砥石」(左が上品、右が並み品)。
          現在もこの天然砥石の熱烈なファンが多いが、扱っている店は少なくなった。
          下はすべて人工砥石で、右から荒砥石(別名「金剛砥石」)、中砥石(キングの1000番)、仕上げ砥石(キングの超仕上げ8000番)、ダイヤモンド砥石(ツボ万のアトマ)である。

          その1

          2004.02.27 Friday

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            当店を訪れるお客には、庖丁を購入される人が非常に多い。
            会話の中で「庖丁はどのように研いでおられますか?」と質問すると、「エ!?・・・研がなくちゃダメですか?」と答える人もいる。(!?)
            どんなに切れ味の凄い刃物でも、研がないと切れなくなる。
            どんなに高性能の自動車でもガソリンを入れないと走らない。
            わかりきった常識が、現在の日本では通用しなくなってきている。
            このコラムで「庖丁研ぎ」について紹介するのが金物屋としての責任だと考えるようになった。
            結婚したての頃、カミさんに庖丁の研ぎ方を教えようとした事がある。
            庖丁を研ぐ事で、庖丁やハガネ、錆(サビ)、砥石など色んな事が体験を通して理解できると考えたからだ。
            販売する側は、売る商品を身をもって理解していないと説得力が生まれない。
            ちゃんと解説して、研いで見せて、あとは体験させて、最後に誉めてやりさえすればうまくいくと思っていたが、甘かった。
            ものの数分もしないうちに「指を切った!」である。
            適材適所という言葉があるが、小生はすぐに見切りをつけた。
            「もう、いいよ」と言ったきり、現在に至っている。
            昨日、テレビで国産の手作りギター・メーカー「ヤイリ」の取材番組を観たのだが、アジア産の「3900円ギター」に押されて、国産ギター業界の苦戦を伝えていた。
            その中で、「この3900円の輸入ギターにしても、材料は100年以上の樹齢の良い木材を使ってあるんです。造りがこんなに粗雑だったら、1年以内にひどい音が出はじめ、結局は捨てられるんでしょうね。もったいなくて・・・・」とギター職人が話していた。
            庖丁も同じだ。ハガネなんてほとんど使用してない安物の庖丁を買って、切れなくなると研ぎもせずに捨てて次を買うという「使い捨て」経済。
            捨てられた庖丁はもちろん再生なんてされず、最終処理場(埋められる)行きである。
            ある日本人女性がパリに旅行に行き、友人のフランス人女性と再会した。
            そのパリジェンヌは、頭の先からつま先までハイセンスなファッションで現われた。
            高級ブランドではないが、ほとんどが手作りと思われる革やシルクやコットンの素材を使った「本物志向」の高級品であった。
            日本人女性はため息をついて「あなたって、凄いお金持ちなのね・・・」と言うと「とんでもない!私は安物を買えるほどお金持ちじゃないわ。」と答えたと言う。
            不思議な会話に聞こえるが、「安物買いの銭失い」ということわざ通りである。
            欧州もやはり「こだわって本物、そして一生モノ」だった。
            初回は庖丁の種類と用途について簡単に説明する。
            現在、家庭で使われている庖丁のほとんどは、「文化庖丁」あるいは「三徳庖丁」あるいは「舟行庖丁」、「菜切庖丁」というものである。
            洋庖丁の場合は「牛刀」か「ぺティナイフ」が多い。
            自分の使っている庖丁が何庖丁かわかられるだろうか?
            添付写真は、上から牛刀、三徳、菜切、ぺティである。
            牛刀か三徳で肉、魚、野菜、果物とほとんどの料理はOKである。
            菜切は先端が丸く、刃がまな板にぴったりフィットするように直線状にしてある。野菜を切るのに都合がいい。
            ぺティは牛刀の小型であるが、果物を細工する目的のほかに、小型の肉、魚、野菜などの加工にも便利だ。
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