でかした! 彫刻家・S女史!

2010.09.21 Tuesday

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    制作開始から約1年間をかけて今年8月に完成したS女史の彫刻作品が県展で見事、最高賞を受賞した。

    S女史こと柴田貴子氏は、昨年の春頃から等身大の人物像を制作できる場所を探しており、その話を聞いた散人氏が早速友人の建設業社長M氏の倉庫を借りれるように手配をしてくれたのである。  等身大と言っても、粘土像を載せる台座も含めた高さは優に2メートルを超える。  頭部の彫刻をする際の作業空間も入れると、天井までの高さは2.5メートル以上は必要である。  しかも制作現場は粘土の破片等でかなり汚れるし、台座も入れた総重量は相当なもので、普通の住居では不可能だった。

    M氏は快く倉庫を提供してくれて、制作に没頭する柴田氏を夫婦でサポートしてくれたという。  当時(昨年)の柴田氏は、同時に大学院でさらに彫刻を研究する道を模索していた。   教員をしながら制作に打ち込み、受験の準備もしなくてはならなかった。   そして見事にそれらをやり遂げ、今年の4月からは大学院に通うために雲仙市国見町から長崎市内に引っ越した。  

    大学院では新たな研究課題に取り組みながら、休日には島原の制作現場に戻って作品の制作に打ち込むという生活が続き、8月にとうとう完成までたどり着いたのである。  「これまでの多くの人達の暖かい協力やアドバイスがあったお陰で、今回の賞を受けることができました。」と柴田氏はしみじみと語った。  
    本当におめでとう!!
     





    以下の写真は、今年2月の制作途中の作品。  制作中にいろんなインスピレーションが湧き、どんどん雰囲気が変化していくのがわかる。   粘土の原型が完成すると、石膏がかけられ「型どり」がされる。  その後、内部の粘土が取り除かれ、内側にFRP(樹脂)が幾重にも塗られていく。  FRPが硬化して安定した頃、外部を覆っていた凹部の石膏を取り除くといよいよ作品本体が姿を現す。












    以下の写真は、現在通っている長崎大学大学院での研究課題作品の型抜き工程である。  場所は、当店駐車場のお城の石垣前(8月19日の夕方)。

     「8月のお盆前後に石膏の型抜きをしたいのですが、場所を貸してください」と柴田氏から頼まれた。  「8月のお盆は店も駐車場も観光客などでバタバタしているから、内田有二さんの作品展がある8月20日から23日あたりはどうかなぁ? 内田さんにも作品を見てもらえるし。」ということで、内田氏の作品の搬入日である8月19日に決定した。

    柴田氏は現在のように本格的に彫刻を始める前は、ある陶芸家に師事して陶芸を研究していた。  次第に陶芸の魅力に惹かれ始め、教員との両立に悩み始めていた時期に当店を訪れた。  何か思い詰めた様子を感じたので、ちょうど当店に来ていた書家・井上龍一郎氏に引き合わせた。  井上氏も元・小学校の教員だったので柴田氏の相談相手としては最適だと直感したからだ。

    速魚川ギャラリーの中庭で二人は長い時間話し込んでいたが、帰る時の柴田氏の表情は見違えるように晴れ晴れとしていた。  「来年の春まで頑張ってみます!」と言い残して柴田氏は帰って行った。  龍一郎氏から何か大きな元気をもらったのだろう。  あれからもう何年経っただろうか?・・・・・


    柴田氏が準備してきた茣蓙(ござ)の上に、石膏で外部を固められた作品が置かれた。  「金槌とノミを貸してください」と、オレンジ色のツナギの作業服に着替えた柴田氏。  いよいよ繭から蝶々が誕生する瞬間が迫った。  観客は陶芸家の内田夫妻と小生の3人だけ。  

     
    一心不乱に型枠の石膏を剥がし取る柴田氏。 陶芸家が焼きあがった作品を窯から取り出す時の心境と似たようなものだろうか?・・・・  柴田氏のツナギが滲み出す汗で次第に濡れていく。  その真剣な迫力に思わず手でサポートする内田氏。


    次第に作品の全貌が現われ始めた。  何かをじっと考えているような優しく柔らかい表情の女性裸像である。 その作品を見つめる柴田氏の表情は、まるで自分の愛おしい子供を見るような、同時に制作者として厳しく査定しているような感じを受ける。  普段の柴田氏が我々には決して見せる事のないハッとするような美しい表情だった。


    「右手首から先がありませんが?・・・」と内田氏が怪訝そうに尋ねた。 「この部分は、石膏を剥がす時に折れたりする危険性があるので、一旦切り離して別に石膏取りしています。  後で接着して完成させます。」と柴田氏が説明した。  







    【彫刻家と写真家】その3

    2009.07.18 Saturday

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      この【彫刻家と写真家】のシリーズは、ひとまず今回で終了する予定である。   彫刻家・S女史は被写体としての彫刻を、そして写真家・松尾順造氏はその写真を提供してくれた。  これで、お二人の芸術的表現の役割は終わっていいはずである。   

      しかし、この二人の作品を生み出すベースとなっている人間的魅力を一部でも皆さんに知って欲しいと思い、ご本人や関係者のコメントを掲載した。 今回、彫刻家・S女史にも「何かコメントを・・・」と迷惑を顧みず、半ば強引に頼んでしまった。
      以下は、彫刻家・S女史のコメントである。
          


      影で語る

      「人間」を表現する

      そこに「ある」ということ

        いつの日からか、人間の身体のもつ量感、エネルギー、流れるようなフォルムの美しさ・はかなさ、また、形ばかりではない人間の精神性・・・?のような不確かな、けれど確かに感じるものを、形にしたいと思うようになりました。

       完成された彫刻という分野の作品は、ギリシャ時代のものを見れば明らかです。
      それなのに、自分はなぜ、こうも彫刻にこだわるのか・・?
       はっきりとしたその答えは、もてないままですが・・・。

       モデルと相対しながら、粘土と語り、自分と対決し、私たちが誰しも持っているであろう、人間の体の中に潜んでいる太古からの記憶や遺産を探りながら・・・そんな作業に没頭できる時間は何よりも楽しい。
      とりあえずもう少し、こだわってつくってみようと思っています。

      ・・・今回、猪原さんに「なにかコメントを。」といわれて、言葉で自分を表現しようと自分の中に入って探ってみましたが・・・
      言葉で表現できるなら、作品はつくっていないわけで・・・
      猪原さ〜ん、この辺で、勘弁してくださ〜い・・・。

       しかし、今回、松尾順造氏に写真として表現して頂いたことで、改めて自分が形づくった彫刻と語ることができました。

       最後に。
       自分の「迷い」「妥協」「表現の稚拙さ」「甘さ」・・・いろいろなものが現れた作品達です。
       今回、撮影を快諾してくださり、専門的な機材とテクニックと熱意でもって、このような形にしてくださった松尾順造氏と、会場をお貸しくださりあまつさえ、このように発表の場まで与えてくださった猪原さんに感謝申しあげます。
      ありがとうございました。

       シバタ 拝
















      【彫刻家と写真家】その2

      2009.07.12 Sunday

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        プロ写真家・松尾順造氏から先週撮影された彫刻の写真がCDで送られてきた。  丁寧な手紙も添えられており大変恐縮した。(順造さん、いつも有難うございます!!)

        CDをパソコンで開いてみて、再びプロの凄さ、恐ろしさを実感することになった。   同じ被写体でも表現方法でイメージがそれぞれ全く異なっており、しかも、その一つ一つが素晴らしい絵になっている。  この中から、どれをどう選んでコラムに載せていいものか?   困ってしまった。

        被写体は彫刻家・S女史の作品であり、その写真は写真家・松尾順造氏の作品である。   考えた末、彫刻家・S女史にコラムに載せる写真を選んでもらうことにした。   5体ある彫刻作品の写真を2回に分けて、今回はその一回目とする事にした。

        「サイトまつを」のブログに、先週の撮影風景に触れた文章が書いてあり、これも感動してしまった。  前回のコラムでも書いたように、彫刻家・S女史は、まつを氏の高校時代の教え子である。  教え子に対する恩師の思いがさらりと書かれているのであるが、なぜか泣けてきた。   以下にそのブログの文章を紹介する。


        7.7 彫刻家のシバタタカコはいい女です。そう思います。この歳になると、そんなことを正面切って言ってもいい、楽な年齢になりました。それに、だいぶわかってもきました。彼女は、着飾るしか能のないブランド消費バカでもありませんし、大切に扱われないと拗ねる性根の腐った女でもありません。村上春樹の言う「そんなこと知ってるんだから」的目線で人を侮蔑もしません。宴会ではよく食べ、後片付けも「私やってるんだから」的厭らしさも見せずそそとやります。彫刻家ですから、「シバタタカオ」とケンちゃんに呼ばれる体力も持っています。そしてなにより、たましいが澄んでいます。たましいが澄んでいて物事を真っ直ぐ見ますので、その分時々疲れるようですが、これは年齢を重ねるとオーライになるでしょう。そんな彼女の作る作品は、しゃれっけや邪念がありません。だからこそ真っ直ぐ作品の上達にもつながってきました。下の写真は、松尾順造さんにシバタタカコが自分の作品を撮ってもらっているところです。そんな作品の一つを、今度里山のカバノンに置いてもらうことになりました。楽しみです。そして今日は七夕。いい男が現れることを祈っています。シバタタカコ、君も祈るのだよ。









        彫刻と写真・・・・それぞれ鑑賞することは大好きなのだが、全くの門外漢なので、例によって散人氏に解説してもらう事にした。   なるほど・・・・散ちゃん、いつもありがとう!!    掲示板の散人氏の書き込みを以下に紹介する。

        【動くものと動かないもの】 投稿者:田屋敷酒散人 投稿日:2009/07/13(Mon) 11:08

         プロカメラマン松尾順造による「女人裸体像(制作S女史)の写真を見て。

         近代に出現した「カメラ」は人間の眼の代用として大きな
        役割を果たしてきた。
         まず「動くもの」を写し止めるということ。 そこには動く
        対象に人間の眼は弱いことを克服して隠されていた表情を
        赤裸々にしてみせた。  所謂「決定的瞬間」という分野である。
         その分野の代表格がフランスのアンリ・カルティエ・ブレッ
        ソンである。  (キャパも)冷気を含んだ冬の光の中、男が
        水溜りの上を飛んでいる「サン・ラザール駅裏」がその後の
        写真の可能性を拓いた。

         日本には「動かない」ものの本質に迫る手法を確立した人がいる。
        木村伊兵衛と土門拳である。    特に木村はメカに強く、
        「カメラは肉眼より奥深くを視ることのできる道具である」という。
        写真独自の視覚を確立したのである。

         木村伊兵衛の流れを汲む「松尾順造」は作家永井路子との
        共著「鎌倉・中世史の風景」岩波グラフィックスを出している
        プロのカメラマンである。
         今回は裸体像を対象にライティングなどメカに精通した上で
        「肉眼よりはるかに奥深く」対象を視ることを我々に可能に
        しているのである。
         氏のブログの山頭火の「行乞記」を辿る連作はいつも楽しみ
        にしている。 どうも氏は「文学」にも肩入れしているらしい。
        鎌倉出身の故か。


        以上の散人氏の書き込みに早速、写真家・松尾順造氏が応答してくれた。  以下に紹介する。   S女史、松尾順造氏、まつを氏、散人氏、と、立場の異なる多くの人の考えを掲載することで、より多面的、重層的にひとつのテーマを探ることが出来る。  コラボによるコラム、略称 『 コラコラ!!』   皆さん、今後ともご協力のほど宜しくお願いします。   どうか見捨てないでください。

        jar > 酒風散人先生 いつもながらの御慧眼恐れ入ります。写真史にもお詳しいとはますます恐れ入谷の鬼子母神でございます。
        小生今日は真夏日の中、蟻のごとく引越し荷物を車に積み、三往復ほどして参りましたので、少々体力的にピントが合いそうにありませんが。
        シバタタカコ氏のこの女性の立像は、色が黒かったので、どこまで黒く表現すべきかが課題でした。
        絵画とちがって、立体の像は、強い光をあてると影ができ、柔らかい光りでつつむようにすると影なしの像になります。
        具体的に姿・形・質感・作家の手の跡、マチエール等をはっきり見せる方法と、光と影が織りなす印象をストレートに表現しする方法と両方撮影しました。  どちらも、作家の精神性に近づきたいと思って撮影していることはもちろんです。
        土門拳と木村伊兵衛のアプローチの違いにも似ていないこともありません。木村伊兵衛の写真には「気品」と「色気」があります。わたしも見習いたいと思っているのですが、まだまだ修行がたりないようです。散人先生の人生劇場講座、開講を心待ちにしております。 (7/13-22:41)



        【彫刻家と写真家】その1

        2009.07.05 Sunday

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           本日、茶房・速魚川で彫刻家・S女史の作品を長崎市在住のプロ写真家・松尾順造氏が撮影する事になった。  彼女は島原高校時代のまつを氏の教え子であり、昨年と今年の速魚川劇場「王女・メディア」と「欲望という名の電車」の演出助手を見事に務めてくれた女性だ。


          S女史は昨年度の県展で見事に入賞を果たしたが、彫刻の世界をより追求するために、次の大きな目標を設定した。
          その目標達成の前提として彼女の作品群の紹介写真が必要とされる。  彫刻作品の立体像を写真で表現するのは素人では不可能である。  散人氏の提案で、プロ写真家・松尾氏に白羽の矢が立った。 



          撮影スタジオは、金物店から茶房中庭に続く通路横の畳の間に決定。  松尾氏の車から多くの撮影機材が持ち込まれ、見る見る間にスタジオが作られていく。   数個のストロボや反射板などの位置が決められ、準備が整った。   等身大の立像は被写体が大きいので、カメラの位置を通路まで下げて撮影された(添付写真)。 


          上の写真は、立像の正式な写真が撮られた後、作品と制作者本人のツーショットが撮られているシーンを、脇からこっそり盗み撮りしたもの。   う〜ん・・・圧倒的に立像のほうが・・・


          今回の撮影は、等身大の立像が2体、頭部像が3体の合計5作品だった。   松尾氏が撮影したカメラのモニターを覗いて全員が唸った。   作者のS女史はもっと驚いた様子だった。   「す、凄いですね・・・・作品の表情や質感の微妙なニュアンスまで見事に表現されてる・・・」    背景のスクリーンやストロボ、反射板の位置も緻密に計算され、修正を加えながらそれぞれの作品に最適の状況が整えられて完璧な写真が撮られたのである。   

          上の写真は、松尾氏の背後から盗み撮りしたもの。  画面下にカメラを操作する松尾氏の手が見える。   一週間ほどしたらそれぞれの完成した写真作品をこのコラムに紹介できる予定。   楽しみである。 



          速魚川の前で、撮影の時を待つ作品達。     手前は来店客の車。  イギリスのロータスという車らしいが初めて見た。   ボディーの鮮やかな赤がまぶしい。   
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