猪原金物店・コラム明治10年に創業。九州で2番目に歴史の金物屋

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【道具曼荼羅】その6 12:34

世界最古(7世紀)の木造建築として世界遺産に指定された奈良・法隆寺の五重塔(国宝)や、地上から54.8m(20階建ビル)の日本一高い京都・東寺(教王護国寺)の五重塔は良く知られているが、天平時代に建てられた奈良・東大寺の七重塔(西塔)が96.4m(30階建ビル)、白河天皇によって永保3年(1083年)に建てられた京都・法勝寺の九重塔が254m(!?)だったと聞くと「ホンマかいな?」と疑いたくなる。地震国・日本において、このような高い木造建築が地震で倒れなかったのは、木材の特性(粘りと弾力性)を巧みに利用した職人技による耐震【柔構造】だった。現在の超高層ビルはこの日本古来のシステムを応用しているという。

世界中が注目する日本古来の木造建築は、鋸や斧、チョウナ、槍鉋、鑿、小刀などの手道具だけで建造された。耐震の【柔構造】を可能にした《軸組構法》は、柱と梁などの継手・仕口を『ほぞ』と『ほぞ穴』で接合する。現在の筋かいや補強金具(各種ボルト・プレート類)を多用する【剛構造】の《枠組壁構法(ツーバイフォー)》とは対照的だ。伝統工法である《軸組構法》の『ほぞ』や『ほぞ穴』を彫る時に必要になるのが鑿(のみ)である。建築基準法により筋かいの使用が義務付けられてから、木造建築は《枠組壁構法》が主流になり、ハウスメーカーによるプレカットの普及も相まって、一般住宅の現場で鑿が使用される事はほとんどなくなりつつある。




















上と下の連続写真は、三木市の卸商【株式会社ミヤケ】社長・三宅寛治氏から写真撮影のためにお借りした錦清水 作『木目打捻り・木成追入鑿・黒檀柄15本組』。文字通り日本一の、いや世界一の《究極の鑿》・・・価格はなんと96万円(税別)。しかし、実物を観ると息を呑むほどの美しさ、精緻な仕上げと究極の完成度に圧倒され、納得する。

「もし、錦さん(77歳)が仕事をやめたら価格は3倍ほどに上がるでしょうね。このような素晴らしい鑿を造れる人は今後もう出てこないからです。」と、鍛冶職人の世界を知り尽くした三宅氏は寂しそうに呟いた。

 

The sharpest chisels in the world!!

 

Kiyomi Nishiki is one of the most famous chisel makers in the world.

Not only Japanese temple and shrine carpenters but also woodworkers have used his chisels for a long time because of the ultimate sharpness.

They are made of the renowned “Yasuki Hagane No.2” steel, carbon steel with special properties, very densely-grained, and both harder and tougher than the usual carbon steels. “White steel” will take the sharpest edge of any steel; these chisels are therefore suitable for the very finest and most precise work. Furthermore, he heats it with pine charcoal and bellows, then forges it with hammer much more than usual to compact the steel texture.The handle is made of an oleaster.









『島原・川遊びの会』主宰・才藤和彦氏が、面白いデジタルカメラを購入し見せてくれたのを思い出した。シャッターを押すと自動的にピント(焦点)の異なる7枚の連続写真を撮り、それを一枚の写真に合成する機能を持っている。どこにピントを合わせるか?と悩まなくても遠近すべてが鮮明に撮れるのだ。才藤氏は、雲仙普賢岳も含めた雲仙国立公園全体の維持管理の仕事をしているので、自然や珍しい動植物の鮮明で正確な記録を残すためにこの特殊カメラを買ったのだろう。

 ★才藤和彦氏のブログ【自然大好き・島原】Click! ⇒
http://kawaasobi.blog32.fc2.com/

「今預かっている《究極の鑿》を撮影したいので、例のカメラを貸してもらえませんか?」と才藤氏に頼むと、すぐに持参して貸してくれた。下のクローズアップされた連続写真が、そのカメラで撮ったもの。しかし、三脚でカメラを完全に固定して撮影しなかったので画像が少しずつブレて、合成機能を使った撮影はすべて失敗に終わった。才藤氏の好意を無駄にしてしまった。レンズの質が良かったので自然光でも明るく撮れたことがせめてもの救い・・・素人はこれだからダメなんだよなぁ・・・・ 








美しく裏透き(凹研磨)された『一枚裏』と『二枚裏』(上の写真)。鑿の刃幅が広くなると『三枚裏』になる(下の写真)。鉋や鑿、片刃包丁、鋏などの裏刃(ハガネの部分)がなぜフラット(平面)ではなく、かすかにフォローグラインド(裏透き)してあるのか?・・・切る対象物への接触面を最少にすることで、摩擦係数を低く抑えて切れ味を高めるためである。

「錦さんの裏透きは、一般の鑿より深いのが特徴です。その分、切れ味が良くなるのです。」と三宅氏が説明した。15本組の中で一番刃幅が狭い5厘(1.5mm)ノミも、見事に深く正確に裏透きが施されており、その高度な技術にため息が出る。





上の一枚と下の連続写真は、鑿の表面を撮影したもの。鑿の大きさに応じて鍛造した柔らかい地鉄(じがね・極軟鋼や錬鉄)と硬く強靭な鋼(はがね・安来鋼や特殊鋼)の間に鍛接剤(鉄粉、硼砂、硼酸などを混合したもの)を加え、1100℃前後に加熱して打撃(手打ちや機械式ハンマー)しながら鍛接(鍛造接合)する。この時、鋼を地鉄にカスガイの形に巻きつけるように鍛接する。

鉋(かんな)が鋼と地鉄をまっすぐ平行に鍛接するの対し、なぜ鑿(のみ)は両サイドを鋼で包み込むように鍛接するのか? 鑿はハンマーで強い打撃を加えながら切っていくので、刃の両サイドが破損しないように鋼で補強するのだ。しかしこの鍛接には高い技術が要求される。「鑿を造る職人は鉋を造れますが、鉋職人が鑿を造ることは難しいといわれています。もちろん千代鶴是秀や貞秀のようにどちらも造れる職人は多くいましたが・・・」と三宅氏は語った。





地鉄の何とも表現できないほど味わい深い【木目肌】は一体どうして造るのだろうか?・・・美しい・・・庖丁やナイフの地鉄部に施される『ダマスカス』や『墨流し』の美しい多層鋼刃紋や美術刀剣の妖しく美しい鉄肌の世界はある程度理解できる。しかし、【木目打ち】は鉄肌の表面に凹凸を持つ3Dの世界・・・ひょっとして、地鉄に使用される《極軟鉄》と《錬鉄》の性質の異なる2種類の軟鉄を幾重にも打ち重ねた後、表面をサンドブラスト(研磨剤をエアーで吹き付ける)とかワイヤーブラシで研磨処理したとか?・・・


























上と下の写真は、兵庫県三木市の卸商【株式会社ミヤケ】社長・三宅寛治氏(昭和23年生まれ)。四半世紀(25年)以上の商取引と同時に膨大な商品知識と人として多くの事を教わってきた。自分の人生にとって大切な師匠のひとりである。その三宅氏が惚れ抜いた三木市在住の鑿(のみ)職人・錦清水(きよみ)氏を紹介してもらった。以下は三宅氏からFAX送付された錦氏の紹介文。

   錦清水(にしき・きよみ・本名)昭和13年8月20日生まれ

13歳から鑿職人の兄の元で修業をしながら学校に通う。25歳で独立。
現在も夫婦二人三脚で鍛冶場に立ち、究極の鑿(ノミ)を造り続けている。
竹中大工道具館(神戸市)の永年に渡る厳しい審査の結果、現役の鍛冶職人として
初めて展示された唯一の人物。昨年の新館オープン記念のポストカードに
夫婦で仕事をされている写真が採用された。

私が錦さんの鑿の取り扱いをして40年以上になりますが、いまだに一本のクレームもありません。
多くの宮大工さんをはじめ、若い人から年配者まで全国で使用されている方々から
「本当によく切れる。仕事が楽になり楽しくなります」とお礼状がたくさん届きます。
使った人のクチコミでファンが増えて、全国の大工さん達から「ともかく、少しでも
長い間、仕事をしてください」と言われています。

錦さんの鑿は、どれも美しい形、鋼の入り方、焼き入れではじいた素晴らしい色、
見ただけで惚れ惚れして、良く切れるのがわかります。

木目打 捻り(もくめうち ひねり)】など、錦さんならではの作品があります。
鋼(はがね)は、安来鋼白紙2号を使い、他の職人さんの3倍は叩いて鍛えています。
だから、ハガネの組織が小さく詰まって良く切れ、一本の不良品も出ないのです。
一般の人は青紙が良いと思っておられますが、他の鍛冶屋さんも「白紙で鍛えたモノの
方が良く切れる。但し、人の3倍は叩かないと」と言われます。
鍛冶屋は鍛えて造るから鍛造です。楽して造って良いものができるはずはありません。


















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【道具曼荼羅】その5 17:40
昨日、次女が大村市まで試験を受けに行き、自動車の運転免許証を取得して帰って来た。当然、助手席に誰が座るのか?で家族に戦慄が走る。今朝、早速「スーパーまで買い出しに行くから、お父さん一緒に乗って」と命令口調で次女が言った。「夜だったら死んでもいいと思うけど、朝死ぬのはいやだなぁ・・」「時間がないから早く乗ってよ」「え〜と・・・『美術刀剣展』の連絡メールは近藤さんに流したし・・・1分ほど待ってくれ、遺言を書くから」「あのねぇ・・時間がないって」「オレだって人生の残り時間は少ないしぃ・・やり残してたことがまだいくつか・・・」「ふざけてないではやく!」結局、拉致強制乗車だった。無事生還できたので、このブログを書いてる。生きてること、生かされていることに感謝!


「鋸の目立て」は死語になりつつある。1980年代頃から《替え刃式ノコギリ》が従来の鋸にとって代わり【両刃すり込みヤスリ】を使って「鋸の目立て」をする大工、木工職人や一般人もいなくなった。市場に需要がなくなると供給する鋸職人もいなくなるのが経済の法則である。大工左官道具の主要産地・兵庫県三木市に数人ほどの年老いた鋸職人が残っているという。

最近、急に「鋸の目立て」を依頼されることが多くなった。もちろん、市販されていない剪定用特殊鋸がほとんどだが《昔取った杵柄》で目立てをするも、老眼の進行が著しく苦戦を強いられることに・・・それでも目立てが終了して、鋸の切っ先部に針を寝せて傾けるとスーッと滑っていくので「まだもう少しはガンバレそう」と胸をなでおろす。
 




「かき氷機」に使用する刃(写真)は、カンナの刃と基本的には同じである。《斜め刃》の面を砥石の面とピッタリ密着させて研いでいく。高い精度の平面に研ぐためには、砥石の面に歪みがあってはならない。日常は主に庖丁を研いでいるので、砥石面は中央部がすり減って歪みが出てくる。砥石面の歪みを矯正する事を「砥石の面直し」という。カンナやノミを研ぐ際は、砥石に高い精度の平面が要求されるので、職人は「砥石の面直し」に神経を注ぐことになる。


新品に刃欠け防止用につけてある「二段刃」をなくすために、まず「荒砥石」で荒研ぎして平面を作る(上の写真)。次に800〜1000番位の「中砥石」で平面の精度を上げていく。そして最後は「仕上げ砥石」で同様に研ぎ上げて終了(下の写真)。ハガネ(鋼鉄)と地金(軟鉄)の二層構造が次第にはっきりと現れてくる。

ちなみに、砥石の目の荒さを表す「番」は、長さ25,4mm(1インチ)に並んだ粒子の個数をいう。従ってこの国際基準の番手の数字が多いほどキメ細かになる。《研磨》とは対象物に研磨剤でキズをつけていることに他ならない。表面が光輝くツルツルした鏡や窓ガラスやダイヤモンドの表面ですら超微粒子の研磨剤で傷つけられて出来上がっているのである。





多くの種類の砥石を販売し、自ら使ってみて納得のいく「中砥石」といえば、上の写真の「キングハイパー」1000番・硬度《標準》である。この中砥石は、炭素鋼系刃物鋼だけでなくステンレス鋼系刃物鋼も相手を選ばず気持ち良く研げる。刃物肌への食いつきが良く速く研げるし、砥石の減りも少ない。ナイフの鋼材として有名な【ATS-34】や究極と言われる【ZDP-189】も研げるオールマイティーの砥石だが、天下の砥石メーカー《キング》なのに生産個数が少なく、注文しても半年以上待ちはざら。当店も入荷待ちで在庫は数個しかない。

時々、裏の茶房が空いた時に店に来て庖丁研ぎを練習する次女。理屈は一通り教えたが、あとは身体で覚えていくしかない。


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【道具曼荼羅】その4 15:57
日本の刃物業界の頂点に君臨してきた【千代鶴】は過去のブログで紹介した事がある。大工や指物師、家具職人など木工に携わる職人にとって千代鶴是秀(これひで)は神様みたいな存在で、「いつかは千代鶴の道具を持ちたい」と昔から憧れの的だった。
天下の刃物職人《千代鶴是秀》と関西で名工と謳われた大工棟梁《江戸熊》のエピソードは有名である。

  ★ 竹中大工道具館「道具よもやま話」 ⇒ http://www.dougukan.jp/contents/257_jp.html


 
不世出の名工《千代鶴是秀》から、昭和24年10月に《千代鶴貞秀》の称号を賜った愛弟子・神吉義良は、播州三木(兵庫県三木市)で「千代鶴」の名に恥じない数々の業績を挙げ、平成2年に《二代目・千代鶴貞秀》を、弟子であり実子の神吉岩雄に襲名させる。今年70歳を迎えた《二代目・千代鶴貞秀》が古希の記念として製作した小刀【夕凪】を、当店が短期間預かることになったので、撮影させてもらった(上と下の写真)。
                   
 ★ 竹中大工道具館「道具よもやま話」 ⇒ http://www.dougukan.jp/contents/253_jp.html



























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【道具曼荼羅】その3 18:23
最近、日本の文化が世界的に注目を集めているニュースをよく眼にする。この現象は単なる “ブーム” ではなく、世界がやっと気づいたと思えるのだ。フランスをはじめ世界中が、和食にしかない人類第5の味覚【旨味(うまみ)】に注目し、パリ市内ではラーメン屋に行列ができている。ドイツは、日本古来からの鍛造技術や刃研ぎを習得しようと多くの日本職人を招待している。

下の写真は、現在は使用しなくなった【墨壺(すみつぼ)】。兵庫県三木市から仕入れた欅(ケヤキ)製の墨壺で、当店で展示販売している。以前、ブログで紹介した記憶もあるが、現在のように「プレカット」建築が主流になる以前、日本建築の在来工法において梁や柱などのキザミの墨打ち(線引き)に使用されていた。同時に、大工さんが正月休みなどで腕が落ちないように自宅でノミやカンナや小刀で墨壺を作り、お世話になった家主などにプレゼントする習慣があったという。古来より日本の【匠(たくみ)】は世界一ストイックな職人なのだ。





上の写真は、家具や楽器などの木彫や彫刻に使用される【極小カンナ】8丁組桐箱入りセット。左から「平鉋」「反鉋」「外丸」「四方反」「内丸」「内丸反」「キワ右」「キワ左」の8種類。兵庫県三木市の道具職人による本物だが、カンナ台(白樫)のサイズはわずか7.5cm。しかし【極小】といっても、用途によってはまだ驚くほど小さな、指に乗るようなカンナもある。プロに限らず木彫マニアにとって垂涎の逸品。当店にて展示販売。


上の写真は、兵庫県三木市の刀匠『左』による極上平カンナ。刃部には世界に誇る日立金属・安来鋼(やすきはがね)の中でも最高級の青紙1号を使用。カンナ台も耐久性抜群の《赤樫》仕様。電動工具が主流の昨今、古来からの【手道具】に挑戦して日本人の内部に眠る《世界一器用で繊細なDNA》に目覚めてはどうだろうか?

     ★ 刃幅:42mm 7寸赤樫台   写真上

     ★ 刃幅:48mm 7寸5分赤樫台  写真下


 ※ 従来の大工さんが使用していた「寸八(63mm)」「寸六(57mm)」に比べたら少し小振りである。


上の写真は、兵庫県三木市の高級有名ブランド【左文字(さもんじ)】による平カンナ。刃部には、堅い木や集成材(合板)にも強い《ハイス鋼》を使用。カンナ台は耐久性抜群の《赤樫》仕様。昨今の建築様式の変化で、無垢の木材を使用することが少なくなった。密閉住空間でのエアコン使用にも耐える集成材が主流になり、従来の鍛造鋼では刃を痛め易く、手鉋にも《ハイス鋼》を採用するようになった。もちろん、刃は砥石でも研げる。

           ★ 刃幅:42mm 6寸赤樫台 


 
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【道具曼荼羅】その2 14:53
最近は庖丁やハサミ類を中心に色んな手道具の修理を頻繁に依頼されるようになった。職人が丹精込めて鍛え上げた鋼の道具たち。購入され、いろんなシーンで使われるうちに刃先が次第に摩耗し、当然ながら切れ味が落ちてくる。そして、砥石やヤスリで研磨することで再び切れ味を取戻す。これを何度も繰り返しながら多くの仕事の役に立ち、鋼部分がいよいよ研ぎ減りしてなくなる最後は役目を終えて処分される。

研磨や修理で持ち込まれる道具たちは種類も状態も千差万別である。過酷な使用に刃先がボロボロになったり、赤サビだらけで原型をかろうじてとどめている状態だったり、木製のハンドルが朽ち落ちていたり・・・・それをテレビ番組【ビフォー&アフター】みたいに生まれ変わらせ、再び道具としての役目を持たせる時の快感は何とも言えない。また、命を削って造った職人の想いを未来に繋げられる歓びも加わるのである。

下の写真は、修理が済んで持ち主が引き取りに来るのを待つ道具たちである。カツオ削り器、裁ちばさみ、剪定ばさみ、食品加工機特殊のこ刃、花ばさみ、菜切り庖丁(薄刃包丁)、出刃庖丁、舟行庖丁など・・・



随分久しぶりに鋸刃の目立てを依頼された。(下の写真)鋸刃といっても食品加工機用の特殊鋸刃で、大工用の鋸ではない。最近の建設現場では替え刃式の鋸がほぼ100%で、昔みたいに目立てをする鋸は皆無だ。金物屋を手伝い始めた頃、鉋やノミの刃研ぎなどと一緒に《鋸の目立て》も習った事があったが、途中で降参した。
両刃鋸を丸々一丁、身幅が細るまで研ぎつぶさないとマスター出来ないと言われ気が遠くなった。

完璧に目立てができた時、鋸の刃先に針を寝かせて傾斜させると、スーと刃先の上を滑り落ちるのだ(!?)。現在、40歳以下の若い大工で鋸の目立てができる人はいない。ところが、80歳以上の一般の日本人男性で鋸の目立てができる人はかなりいたという(!?)。恐るべし!昔の日本人!! 今回、久し振りに目立てに挑戦してみたが・・・ハハハハ・・・老眼が進んで刃先がよく見えない・・・歳をとるって、可能な選択肢が確実に減っていくことなのよねぇ・・・・


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【道具曼荼羅】その1 18:04
兵庫県三木市は新潟県三条市と並び称される日本を代表する建築道具生産の地である。 当店にも月に一回、かの地より卸業者が営業に訪れる。 新商品の紹介に加えいろんなメーカーのカタログ、チラシなどを配布していく。 その中に手道具製作工程の手描きマンガ風チラシがあった。 金物卸商組合で作った珍しい資料だったので以下に添付する。


30数年前に刃の部分だけ取り替え式の「使い捨て鋸」が登場し、ヤスリで目立てしながら最後まで使っていた従来の鋸は市場から姿を消していった。  電動式丸ノコの普及もそれに拍車をかけた。
従って、三木市においても鍛造して鋸を作る職人はほとんどいなくなり上の図は「民俗史料」になりそうだ。

現在、40歳代以下の大工職人にヤスリを使って鋸の目立てができる人はほとんどいない。 現在市場に出回っている使い捨て鋸の刃は「ハード・インパルス(高周波焼入れ)」という高周波装置によって瞬間的に刃先だけ硬い焼入れをしてあり、その硬さから切れ味と長切れを実現したが、ヤスリも歯が立たず目立てして再生する事はできない。

ところが、大阪や東京などの一部の宮大工や建築大工は現在も昔からの目立て式鋸を使用している。 いわゆる「在来工法」による日本建築の建物に関わる名人と言われる匠たちだ。 彼らは別に従来の目立て式の鋸にこだわっている訳ではなく、高度で繊細な技術を要する箇所にはどうしても目立て式鋸でないと切断加工が不可能なのである。 ただ単に硬いだけでは解決できない要素があるのだ。

上の図の製作工程に「焼き入れ、焼きもどし」という工程がある。 十数年前に三木の金物卸商組合が年に一度主催する「金物大学校」に参加したことがあった。 そのカリキュラムの中に「鋸の製作現場」の見学があり、見ている前で鋸の「焼き入れ」をした。 真っ赤に焼かれた鋸を瞬間的に水に入れ「焼き入れ」をする。 これでハガネが硬くなるのだが、この鋸を担当者がハンマーで軽く叩いたら、ガラスが割れるように鋸が粉々になった。 この後の「焼きもどし」の必要性を説明するためのデモンストレーションだった。


建築、家具など木工に携わる職人や作家、あるいは刃物を製作する職人や作家などが一度は手にしたいと憧れる刃物を作った不世出の名工「千代鶴是秀」。 千代鶴是秀は明治、大正、昭和期に刃物界の王者として君臨した。 特に、彼の手による各種小刀は姿、切れ味においてもその完成度の高さから「芸術品」として現在も多くの本や雑誌に紹介されている。


鉋(かんな)という言葉を知らない日本人は今のところほとんどいないだろうが、あと数十年もすれば「死語」になる可能性がある。 板や柱や梁など木造建築や木工家具、彫刻、楽器、工芸品など木材を加工する際に使用する代表的な手道具である。

上の図は、鉋で一番基本になる「平鉋(ひらがんな)」の製造工程。 主に木部の平面を均(なら)す時に用いる。 平鉋にもいろんなバリエーションがあるが、その他には面取り、外丸、内丸、平反(そり)、四方反、内丸反、外反、際(キワ)、作里(さくり)、南京など数え上げたらきりがない。

しかし、現在その用途のほとんどが電動工具に取って替わられた。 電気カンナ、自動カンナ盤、トリマ、ルータ、果ては万能木工機と、素人でもあらゆる木工面の加工が出来るようになった。 

ところが、その切断面において基本的な相違点が生じる。 モーターの高速回転運動による不連続な切断面は肉眼では同じ様に見えるが、拡大してみると「木の細胞」はつぶされており、呼吸が出来ない状態になっている。 梅雨のある日本の気候において乾湿差は大きく、吸湿排湿による呼吸の出来ない木の寿命は極端に短くなるのだ。

宮大工や従来の日本建築の大工が柱や梁などの表面の仕上げを、天然砥石で研いだ手鉋で時間をかけて丁寧に仕上げる理由は、木が呼吸できる表面を作るためである。 木造建築物の寿命は使用した木材の樹齢に比例すると言われているが、木の表面の仕上げを誤ると寿命は極端に短くなるのである。 例えが悪いが、切れ味の良い刺身庖丁と電動丸のこで切断した刺身はどちらが美味いか想像してもらえば分かりやすいと思う。


「先月、10万円の仕上げ鏝の注文が入りました」と三木市の卸商・三宅氏が教えてくれた。 「エ〜! 普通は同じサイズの中塗り鏝が数百円、仕上げ鏝が約10倍の数千円ですよね。 10万円の仕上げ鏝とどこがどう違うのですか?」と尋ねた。 当店では過去、そのような特別仕様の注文があった記憶はない。

「モルタル壁や土壁、漆喰壁などの最終仕上げに【究極】を求める場合、仕上げ鏝も究極のものを使用する事になります。 壁の仕上げ面の【究極】とは、ミクロ単位で壁材の粒子が規則正しく並び、かつ平面に一切の歪みがない状態を言います。 そのような壁や床の面は紫外線や雨風による浸食、カビやコケ類の胞子の付着などによる経年変化が起きにくく、数百年経ってもビクともしません。」

「但し、仕上げ塗りには相当な時間と技術を要します。 約3倍以上の作業時間を要するので効率が悪い分費用もかかります。 しかし、仕上げた面が乾燥した後も光沢を帯びるのです。 従って、それを可能にする鏝を作るのは容易ではありません。 鍛冶職人の卓越した技術は元より、鋼の材質の選定、製作工程も慎重に時間をかけて行われます。 分業による流れ作業では無理で、ほぼ一人の熟練職人によるカスタムメイドになるのです。」

究極】の鏝と一流の左官が揃った時、永遠を約束された【究極】の壁が現出する。 かつて「千年の釘」を製作し薬師寺や法隆寺の修復工事に納めた四国松山の鍛冶職人・白鷹幸伯氏に代表される名人達は常に「経年変化」との戦いを念頭に仕事に専心してきたのである。 彼らは目先の生活より数百年後、あるいは千年後の改修時、自分の仕事を見るであろう未来の名人達を感動で唸らせたいという強い思いを持っているのだ。

それに比して現在の住宅建築は耐用年数50年を念頭に造られている。 アメリカナイズされた「使い捨ての経済」はいつまで続くのだろうか? 本来の「持続可能経済」に戻るのはいつだろうか?

 
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